東京21法律事務所所属

弁護士 広津 佳子  Lawyer Keiko Hirotsu Official Site

ブログ
2018/8/7
経済学からみる会社法
 1か月前になりますが、東京大学社会科学研究所田中亘教授による「経済学から見る会社法」のご講演を受講しました。田中先生は、法制審議会会社法部会の幹事のお1人でもありますが、法と経済学を研究する意味に関する先生のお話は、たいへん示唆に富むものでした。

 田中先生は、法と経済学を研究することの意味として、利益考量を精緻化、明確化する有用なツールであるとのご意見をお持ちでした。東大の星野先生がご指摘をされたように、「解釈の決め手になるのは、今日においてどのような価値をどのように実現し、どのような利益をどのように保護するべきかという判断」であって、市民は、最高裁判事や法律家の言うことが常に正しいとは思っておらず、「まず、常識で判断してみて、妥当と思われる解釈を導くような解釈を重視すべきであり」、「直感的公正観念ないし常識に基づくべき」という価値判断が妥当とのご意見でした。

 そして、興味深いのは、会社法の分野では、この「直感的公正観念に頼っても答えはでないことが多いのではないか」というご意見であったことです。

 田中先生が例として指摘をされたのは、敵対的買収に対して取締役会が防衛策を行使することがどこまで許容されるのかという点でした。確かに、田中先生が講演会の中で指摘をされておられましたが、買収防衛策には、現行の取締役の保身という効果があることは、否定はできません。スティールパートナーズとブルドックソース事件の平成19年8月7日付の最高裁決定も、新株予約権の無償割当について、会社の利益ひいては株主の共同の利益が害されることになるか否かについては、最終的には、株主自身により判断されるべきであると判断したのも理解ができるところです。

 また、会社法の改正とCGコードの導入等で、上場会社では、2名以上社外取締役の選任が普及しましたが、「社外取締役の導入によって、会社の業績はよくなる」という仮説を疑問の余地なく指示してよいかというと、少なくとも、二部上場の会社では、CGコード導入後に社外取締役を2人以上に増やした会社は、トービンのQで計測した株式市場の評価が低下しているという研究報告が存在するというご指摘は、興味深いものでした(平成29年9月6日の法制審議会会社法制部会第5回会議の資料23)。
 この研究報告をされた慶応大学の齋藤先生の解釈によると、時価総額が50億円程度が平均である二部上場会社では、社外取締役2名を選任する費用に見合うだけの企業価値の増加が見込めるかという点について、市場が懐疑的に反応しているのではないかというご説明でした。

 会社法は、特定の会社の中で、持株数の過半数を保有すれば、どんな方であれ、支配できるという世界です。会社法の分野では、仮説のいずれかが疑問の余地なく支持されるということはあまり多くなく、法律問題を一刀両断に解決しようとすれば危うさがあるということを改めて痛感した講演会でした。
RSSアイコンRSSフィードを購読