東京21法律事務所所属

弁護士 広津 佳子  Lawyer Keiko Hirotsu Official Site

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2016/10/22
平成28年事務年度金融行政方針が公表されました
 金融庁は、平成28年10月21日に、平成28年事務年度金融行政方針を公表しました。この金融行政方針は、金融庁が、昨年から、金融行政が何を目指し、いかなる方針で行政を行っていくかについて金融行政方針として明確化し、公表するようになったものです。

 昨年の平成27年事務年度金融行政方針(平成27年9月公表)は、①活力ある資本市場と安定的な資産掲載の実現、市場の公正性・透明性の確保、②金融仲介機能の十分な発揮と健全な金融システムの確保、③顧客の信頼・安心感の確保、④IT技術の進展による金融業・市場の変革への戦略的な対応の4つの重点施策が指摘されました。

 そして、金融庁は、上記の平成27年事務年度の金融行政方針に従い、平成28年5月に、情報通信技術の進展等の環境変化に対応するために銀行法を改正しました。
 改正の骨子は、①これまでは持株会社は子会社の経営管理業務しか行えなかったところ、システム管理業務や資産運用業務などのグループ内の共通・重複業務について、持株会社に集約してかかる業務を実施することができるようにする、あるいは、持株会社の子銀行の委託先管理業務を持株会社の子会社に一元化することを認める、②同一持株会社グループ内の銀行間取引について、銀行の経営の健全性を損なうおそれがない等の要件を満たすとして当局の承認を受けた場合には、アームズ・レングス・ルール(銀行がグループ内で取引を行う場合、グループ外の「同一の信用力を持つ者」との間で取引を行う場合の条件より有利な条件で取引を行うことを禁止するルール)に基づく利率とは異なる社内レートの使用を容認する、③金融関連IT企業への出資は、銀行業の高度化・利用者利便の向上に資すると見込まれる業務を営む会社に対して、出資段階では成功の見込みは不明確でも、当局の認可を得て出資をすることを可能にする、④仮想通貨への対応(仮想通貨交換業者の登録、マネロン・テロ資金供与規制、利用者保護のためのルールの整備)等の改正が行われ、銀行の役割が大きく変わろうとしています。

 弁護士の立場では、上記の平成27年の金融行政方針の4つめの施策として、FinTecと呼ばれる金融・IT融合の動きが指摘されたことで、FinTecが注目されています。
 これまでは限られた者しか関与していなかったFinTecに関し、平成27年事務年度金融行政方針に重点施策の4つ目として指摘されたことで、いきなりトップギアで注目され、弁護士会では、つい先日も、FinTecに関する研修会が開催されました。この研修会では、金融庁参事官も交えてディスカッションがなされ、これまでの法律にはない分野で、弁護士が、資金力や資金調達ルートは持っていないもののスキルを持っているスタート・アップ企業に対し、どういう支援ができるのか、検討されている状況です。
 
 平成28年事務年度金融行政方針については、これから、多くの方が論評されると思いますが、拝見して印象に残ったのは、金融庁が、「十分な担保・保証のある先や高い信用力のある先以外に対する金融機関の取組みが十分でないために、企業価値の向上が実現できず、金融機関自身もビジネスチャンスを逃している状況」を「日本型金融排除」と明確に定義し、かかる日本型金融排除がないか実態を聴き取りして、”そもそも融資できる企業が少なく、厳しい金利競争を強いられている”と貸せない理由を説明する銀行側の説明が本当かどうか検証をする旨を述べている点です。
 また、平成28年の金融行政方針においてFinTecの対応として指摘されている項目は、①FinTecの進展に応じた法制面の対応、②金融機関の機動的な対応の促進、③IT分野の技術革新の取組み、④FinTecベンチャー企業の登場・成長が進んでいく環境(エコシステム)の形成に向けた取組みの継続、⑤FinTecサポートデスクの活用・対外的な情報発信の実施が指摘されています。

 金融行政方針を拝見すると、これまでとは違う銀行像が描かれます。上記の弁護士会の研修会で指摘されていましたが、セブン銀行を始めるときは、従来の金融機関の関係者は、”うまくいかないであろう”と評価していました。実際にはうまくいったわけですが、うまくいかないであろうと評価した従来の金融機関の関係者は、以下の事情を考えていなかったと指摘されています。
①以前は、コンビニは毎日の売上現金を金融機関の夜間金庫に入れるべく運搬していたところ、コンビニ内に設置されたATMに入れることで、夜間金庫に運搬するコストを削減することができたこと
②コンビニの毎日の売上入金のみならず、タクシードライバーや飲食店が、24時間営業で至るところにあるコンビニのATMを利用して現金を入金することが多いため、顧客がコンビニのATMで現金の払戻しを行っても、セブン銀行にてお金が足りなくなることがなく、お金の補充が月1回程度でよいという、低コストで非常に効率的なビジネスモデルが構築できたこと

 弁護士も、これまでの訴訟や取引関係の紛争の解決という弁護士像に拘ることなく、これまでにはない分野における事業者のスタート・アップにあたり、明らかに法令に抵触しないことを確認して、背中を押して支援するという役割も求められているような気がします。
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