東京21法律事務所所属

弁護士 広津 佳子  Lawyer Keiko Hirotsu Official Site

ブログ
2015/5/30
社外役員について考えること その2
 最近、社外監査役の選任が法律上要求されていなかった平成5年6月に、株主総会にて法曹関係者から社外監査役の選任を求めたというS商事に関する思い出話の記事を拝読しました。この記事を読んで、2015年2月28日付ブログ「社外取締役について考えること」につづき、社外取締役や社外監査役等の社外役員について、改めて考えました。

 S商事の社長は、当時の法務部長に、そろそろ社外監査役を入れるべきなので人を探せと言われ、検事総長を辞めて弁護士になったばかりの人を社外監査役候補者とし、社長と法務部長とでその候補者とお会いしたこと、社長はこの候補者との初対面で大演説を始め、S商事の歴史を語り、「あなたには絶対に迷惑をかけません」と力説したこと、これを聞いて社外監査役候補者の弁護士は、最後に一言「わかりました。お受けします」と引き受けたとのことでした。
 しかし、その後、S商事は、この社外監査役の在職中に従業員が巨額の損失を出していたことが分かり、社長は、当該社外監査役に「迷惑をかけません」と大演説をぶったので、社外監査役に謝り、社外監査役は、表では何も言わず、「手広くやっている大きな会社では、色々起こるでしょう」と泰然自若の態度であったという記事でした。

 平成5年6月当時は、法曹関係者から監査役を登用するという発想は斬新であったという指摘はそのとおりと思いますが、ただ、社長が社外監査役候補者に「あなたには絶対に迷惑をかけません」と言って選任をお願いしたという点及び不祥事が発覚しても社外監査役が何も言わなかったという点も、今の感覚からは、かなり違和感があります。”S商事”という名称と従業員の巨額の損失事件の判明時期から、私は、あの会社のことかと認識いたしましたが、日本をリードする著名な大企業でさえ、今から20年前は、このような意識であったのかと再認識し、まさに隔世の感だと思いました。

 現在でも、リスクを強く意識している社外取締役は少数であるという指摘もあります。社外取締役や社外監査役には、「業務執行の取締役から迷惑をかけられることはないであろう」という思いがあるのかもしれません。スチュワードシップ・コードとコーポレートガバナンス・コードも策定され、独立社外役員(特に社外取締役)に課された任務の大きさを痛感いたしました。
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