東京21法律事務所所属

弁護士 広津 佳子  Lawyer Keiko Hirotsu Official Site

ブログ
2015/4/12
社外取締役とインサイダーリスク?
スーパー西友に関し、米ウォールマートの子会社化の過程で行われた株式公開買付(TOB)を公表前に知ってインサイダー取引を行ったとして、西友の社外取締役の夫が、2012年9月に、懲役2年、執行猶予3年、罰金100万円(法人名でも株を取得したため、法人に対する罰金は400万円)の有罪判決を言い渡されたことがありました。

この西友の事案は、2007年10月に、西友がTOB価格などを協議する取締役会を開く際、その招集連絡を社外取締役の自宅の電話に行い、その電話を受けたのが夫だったというものでした。自宅に戻った社外取締役は、夫から内容を伝えられてTOBの件と認識し、その後の夫婦間の短い会話の中で夫はTOB実施を確信し、その後夫は、自身が代表取締役を務める(妻も共同経営者)会社名義で、電光石火で20万株の西友株の購入し、個人名義でも7万株を購入し、TOB公表後に売り抜けて約1300万円の利益を手にしたというものです。
ある月刊誌にて、この西友の事件を取り上げて、社外取締役が多いほど(社外取締役バブル)情報は漏れやすくなるとの指摘がありました。

確かに情報に接する当事者の数が多くなれば情報が漏れる可能性が高くなるという面は否定できませんが、この西友の事案における夫の行動は、あり得ない行動です。常識のある人であれば、インサイダー情報に接したと思えば当該株を買うことはありませんし、まして情報が公開された後に売ることもありません。社外取締役であれば、TOBの実施を夫に確信させるような言動をすることも考えられません。東証が社外取締役2名以上の選任を事実上義務付けたからと言って、常識では考えられない行動を一般化することには疑問があります。

しかも、この西友事件の当時は、TOBする側の会社の役職員らは公開買付者等関係者となり家族も取引が禁止されていたものの、TOBをされる側の会社の役職員は、守秘義務契約等がない限り関係者にあたりませんでした。これについては以前から批判があり、平成26年4月に、改正金融商品取引法が施行され、公開買付者等関係者の範囲を拡大して、TOBをされる側の会社の役職員も、守秘義務契約等がなくても処罰の対象とされるようになりましたので、西友の事案から直ちに、社外取締役の人数が増えたからと言って、インサイダーリスクが高まるとは言えないと思いました。

もちろん、社外取締役も、法令等について勉強しなければなりません。中堅規模の上場会社は、人材捜しに経営資源を振り向ける余裕がなく、社外取締役の選任が進んでいないという指摘もありますが、外部者である社外取締役による取締役の監督や業界にはとらわれない多様な視野は、企業の価値の向上に寄与すると思います。
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