東京21法律事務所所属

弁護士 広津 佳子  Lawyer Keiko Hirotsu Official Site

ブログ
2015/1/7
反対尋問は難しい その2
 明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
 昨年の、【反対尋問は難しい】の続きです。

 反対尋問の成功例として、フランシス L.ウェルマン「反対尋問の技術」に挙げられている、アメリカの大統領であったリンカーンが弁護士時代に行った反対尋問は、犯人として起訴された被告人側の弁護人として、銃で被害者を殺害したのを目撃した証人に対する反対尋問でした。

 どのように尋問したかというと(若干不正確かもしれませんが、ご容赦ください)、「あなたと被告人との距離は遠く離れていなかったのですね」、「犯人の顔の表情もよく見えたのですね」、「銃の形状や銃が黒光りするのも見えたのですね」、「発射後の煙も見えたのですね」などと証人が目撃した点を固めたうえで、「犯行現場は草原でしたよね」、「犯行時刻は夜中でしたよね」、「電灯はなかったですよね」、「被告人や被害者、あなたはランプを持っていなかったですよね」などと視認できたか否かという点で客観的な事実のみを聞いて追い込んでいきます。そして、リンカーンは、「月明かりがあったので見えたのでしょうか」と聞いて、証人は「そうです」と答えることになりました(そう答えざるを得なかったと言う方が正確でしょう)。すぐにリンカーンは、当日は新月であったとの新聞の天気予報の記事を証人に提示し証人の証言が信用できないことの立証に成功したのでした。日本と裁判制度が異なるので、日本で直ちにあてはまるものではないですが、反対尋問の成功の一例としては学ぶところが大きいです。
 ただ、上記のリンカーンの反対尋問をまねて失敗した例もアメリカにはあるようです。例えば、ケンカで被害者の指を噛み切ったとされる被告人の弁護士の例です。これもうろ覚えで申し訳ないのですが、「あなたと被告人との距離は遠く離れていなかったのですね」、「犯人の顔の表情もよく見えたのですね」、「殴った音も罵る声も大きく聞こえたのですよね」などと証人が目撃した点を固めたうえで、「犯行時刻は夜中でしたよね」、「電灯はなかったですよね」、「被告人や被害者、あなたはランプを持っていなかったですよね」と聞きましたが、最後に「なんで、被告人を犯人だと言えるんですか」と聞いてしまったところ、証人が「自分がケンカを止めに入ったところ、被告人が私の目前で指を口から吐き出したのを見たからです」と証言して、反対尋問が失敗しました(最後の質問が余計だったのかもしれません)。
 
 反対尋問は、どう質問を組み立てるか、どこで踏みとどまるべきかといった点で非常に難しいです。
 そして、証人との掛け合いに時間を要するため、時間不足になることが多いのが実情です。その上、事実を引き出しても、当該事実をどう評価するのかまで尋問しないと、第三者には理解されにくいと感じることも多いです。
 代理人として、裁判所にご理解いただくために、どう尋問を構成するか十分に検討することの必要性を痛感します。

 数百件に1件しか成功例を見ない(裁判官人生でうまくいった反対尋問など見たことがないという方もおられるようです)という裁判官の評価も理解できるところで、実施するたびに私も反対尋問は難しいと思っております。
 
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