東京21法律事務所所属

弁護士 広津 佳子  Lawyer Keiko Hirotsu Official Site

ブログ
2019/2/17
花椿 「ダルちゃん」単行本を拝読しました
 本年の初めてのブログです。本年も、よろしくお願いいたします。

 皆様、「ダルちゃん」というコミック作品をご存知でしょうか。資生堂のウェブサイト「ウェブ花椿」で、2017年から約1年にわたり連載された、はるな檸檬さんの作品です。主人公の「ダルちゃん」は、24歳の派遣社員で、本当の自分を押し殺し、周囲と足並みを揃えて”普通”(作品では、「擬態」という表現が使われています)に生きていますが、日々、生きづらさを感じていて、自分なりの幸せを感じ、詩の創作に励んで希望を見出していくというストーリーです。先日、この作品が新井賞を受賞し、作家のはるなさんと、新井賞の創設者である三省堂書店の新井見枝香さんとの対談記事を週刊誌で拝見しました。新井賞は、三省堂書店の書店員・新井見枝香さんが、店頭での販促を兼ねて、個人的に推したいと選定した本を対象とするもので、直木賞・芥川賞の発表と同じ日の夜に発表されます。

 この対談記事の中で、新井さんが、20代女性に向けて書いた作品であるが、むしろ、40代~50代の男女に響くのではないか、何かを踏み越えて覚悟を決めた人がこの作品を読むと、これでよかったんだと救われるのではないかと指摘をされていました。
 他方、ネット上では、少し辛口の評価もあるようです。作品の最後で、恋人と別れ、派遣先の変わった主人公のダルちゃんが、「素の自分も悪くないって思えると、擬態も苦痛じゃないっていうか 擬態している姿も私自身なんだなって思えるというか・・・」とコメントしているのですが、このコメントについて、少数者が多数者に迎合しているようで、何も変わっていなくて、がっかりしたという趣旨の感想も目にしました。
 
 いずれの感想も、なるほどと思いました。対談記事の中で、新井氏が、「登場人物に感情移入ができなかった。具体的にどこがいいと言葉にすることが難しかったが、本当のことが書いてあると思った、この本を読むことで真理だと思わせる力がある、いい本は、よくも悪くも、人をかき乱すもので、読む時の状態で、違った意味で捉えられる」とコメントされていましたが、私も、同じ印象を抱きました。私も、まさに「この40代~50代」ですが、私の場合は、ダルちゃんと違い、無理に「擬態」をすることなく、自分を信じて、努力を続けていきたいと思っているタイプです。ダルちゃんも、最後は、詩の創作活動を通じて、自分らしく生きようとしていますし、新しい派遣先で、自身の詩の創作を評価され、居心地の良さも感じています。ダルちゃんが、本当の姿である「ダルダル星人」として生きることができればよいのですが、今の日本の社会では、それは難しいでしょうし、人の”素”は、そう簡単には変わりませんから、多様性が進めば、かえって、ある程度の「擬態」が必要な気がします。構成員の全員が、お互いを理解し、お互いの力を最大限に発揮して、調和していくためには、”柔らかさ”や”しなやかさ”が求められると思います。資生堂の花椿サイトにて、お笑い芸人の村上健志氏が、「ダルちゃんの逞しさを思うと、強風に吹かれても折れることのないたんぽぽを思い出しました」とのコメントを寄せています。
 まさに「強風に吹かれても折れないたんぽぽ」という表現は、私の印象としても、ピッタリだと思いました。

 たいへん読みやすい作品です。このような作品を世に送り出す、資生堂のブランドの創造力にも、脱帽いたします。
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