東京21法律事務所所属

弁護士 広津 佳子  Lawyer Keiko Hirotsu Official Site

ブログ
2016/8/2
家裁調査官は見た
 2016年7月20日発行の「家裁調査官は見た」(新潮新書)は、興味深い本でした。
 冒頭では、酒乱でもなければ浮気をしているわけでもない、ギャンブルをするわけでもなく、暴力もない夫が妻から毛嫌いされ、離婚調停を申し立てられたケースが紹介されていました。夫が妻から嫌われている理由が分からないことから、調停委員会は、家裁調査官に夫婦の気持ちや意向調査を依頼しました。
 調査官が夫婦のカウンセリングを実施していくと、妻の幼い頃からの母親への強い負の感情を、現在の人間関係である夫や義母への感情に移し換えてしまうという感情転移があることが分かったという事例でした。
 妻の母親は厳格で、むりやり型にはめ込もうとするタイプで、小さい頃から妻は母親に抵抗ができないでいたところ、妻は高校進学でも親に抵抗し、高校で停学や謹慎処分も受け、家も出て、母親から自立をしたつもりが、夫と義母の姿が、「夫は良い子を強制され、母親に完全に支配されている」という自分が最も見たくない姿と重なったため、夫と一緒にいたら、必死に抵抗して勝ち取ったはずの自立がなくなってしまうと思い、夫と離婚したいと思うようになったという分析が記述されていました。

 このカウンセリングを通じて、夫は妻の親との血みどろの確執を初めて知り、妻の孤立無援の孤独感に共感するようになっただけでなく、最も変わったのは妻で、妻は、自分自身の苦悩と夫への思いをそれぞれ切り離して考えることができるようになり、「私自身が一番自立できていなかったのですね」と語ったそうです。この夫婦はもう一度やり直すことになったと記述されていました。

 その他にも、配偶者の異常な嫉妬、配偶者をコントロールしようとする気持ちの背景には、1人でいられる能力不足、つまり他者といても自分を失わない、安定した自分でいられる力が不足していて、見捨てられることの不安が非常に強いという指摘がありました。これには、配偶者が母親代わりとなり、相手を見捨てることはないという態度を粘り強くとることが必要だそうです。

 私は、お付き合いをしている顧問会社等のご紹介のご縁で、従業員の方やそのご家族の方々の家庭裁判所の事件(離婚、養育費、面会交流、遺産分割他)を担当することも多いのですが、調査官と接していると、お話や振る舞い等、学ぶことが多いと感じています。

 非常に示唆に富む本でした。
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