東京21法律事務所所属

弁護士 広津 佳子  Lawyer Keiko Hirotsu Official Site

ブログ
2016/6/19
特許庁 先使用権制度の活用
 平成28年5月に、特許庁は、「先使用権制度の円滑な活用に向けて-戦略的なノウハウ管理のために-(第2版)」を公表しています。平成18年6月にも、先使用権制度のガイドラインを公表していましたが、今回は、企業が生み出した技術について、他社に使用することを許すオープン戦略(一部の技術をオープン化して製品関連技術を広く普及させて製品市場の拡大を図ることで事業収益を最大化する)と自社で独占するクローズ戦略の適切な選択・組み合わせが求められていることを踏まえて、ガイドラインを改定したものです。
平成28年5月 先使用権制度の円滑な活用に向けて-戦略的なノウハウ管理のために-(第2版)http://www.jpo.go.jp/seido/tokkyo/seido/senshiyou/pdf/senshiyouken/senshiyouken_2han.pdf

 2015年11月7日及び2016年5月29日のブログにて触れましたが、不正競争防止法に関し、平成27年改正で、営業秘密侵害行為に対する抑止力の向上に向けた罰則の強化を行いました。平成27年1月には、これまでの大部であった営業秘密管理指針をコンパクトにまとめて、不正競争防止法上の営業秘密(特に、秘密管理性)として認定されるためには、最低限何をすればよいのかを指針に明記して、中小企業においてもノウハウが営業秘密として法的保護を受けられるようにしました。そして、営業秘密として法的保護を受けられる水準を超えたベストプラクティスとして、秘密情報の保護ハンドブック~企業価値向上に向けて~を策定して、公開するという、二段階に整理をしました。
平成27年1月 営業秘密指針 
http://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/20150128hontai.pdf

平成28年2月 秘密情報の保護ハンドブック~企業価値向上に向けて~
http://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/handbook/full.pdf(本文)
http://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/handbook/reference1-6.pdf(参考資料)
 
 他方、企業の技術力は拮抗しています。仮に、ある企業内であるノウハウを営業秘密として管理してクローズ戦略をとったとしても、他社でも同様に開発されて特許出願されてしまったり、自社が特許出願する前に他社に特許出願されたりするリスクも高まっていると言われています。他社によって取得された特許権の権利行使等から自社の事業を守るために、特許等の実施事業の準備をしていた者(先使用権者)について、法律の定める一定の範囲で、先願者の特許権を無償で実施し、事業の継続を認めることにより、特許の先願者と先使用権者との公平を図ろうとするのが、先使用権制度です。特許法79条に定めがあります(実用新案法や意匠法にも同様の規定がある)。
 特許庁は、先使用権制度のガイドラインを改定し、特に先使用権の立証のために、証拠保全の具体的な手法(日常業務で作成される資料において、先使用権の立証に有効と思われる資料例や、公証制度、タイムスタンプ、電子署名、郵便)を紹介しています。タイムスタンプの方法については、非常に詳細に記述されています。

 私は、特許庁の職員の方による、先使用権制度の上記ガイドラインの改定の趣旨、その他、他国の先使用権制度の比較等に関する勉強会に参加しましたが、同勉強会における議論で印象に残ったのは、営業秘密指針の改定、不正競争防止法の改正のみならず、他社に特許等の出願がされても先使用権の抗弁を主張して保護するべく、先使用権制度のガイドラインの改定をすることで、営業秘密保護という施策が一気通貫するという発想の下に、経済産業省の知的財産政策室と特許庁の協働により、これらの改正、改定作業が行われてきたというご指摘でした。

 企業の持続的な成長のためには、ノウハウ保護も重要な施策の1つです。また、特許庁の職員の方のお話を聴いていて、上記のガイドラインにて紹介されている立証方法は、先使用権の立証のためだけでなく、他の紛争の上でも参考になると思いました。私もお役に立てるべく、努力を続けたいと思います。
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