東京21法律事務所所属

弁護士 広津 佳子  Lawyer Keiko Hirotsu Official Site

ブログ
2016/5/8
消費者制度の改正
最近、消費者制度の諸改正が行われています。

よく知られたところでは、2016年4月より、改正不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)が施行され、景品表示法上の3つの不当表示(優良誤認表示、有利誤認表示、その他告示で定める表示)のうち、優良誤認表示と有利誤認表示を対象とした課徴金納付命令が新設されています(景品表示法第8条)。不当表示への従来の措置命令の内容は、①不当表示であったことの一般消費者への周知徹底(日刊新聞2紙以上に掲載)、②再発防止措置と社内への周知徹底、③将来同様の表示をしないというものでしたが、今後は、課徴金納付命令が加わりました。事業者が消費者庁に実施予定返金措置計画を提出の上返金を実施すると課徴金の減免が認められているということもあり(景品表示法第11条2項)、事業者は、今後は消費者や販売先からの返金要請にも対応を迫られそうです。

 また、2016年3月4日に、特定商取引法改正案と消費者契約法改正案が閣議決定され、国会に提出されています。特定商取引法改正は、不当な契約をさせない入口部分の規制で、①電話勧誘販売に過量販売解除権を導入し、消費者が日常生活において通常必要とされる分量を著しく超える商品の売買契約等について、行政処分(指示等)の対象とし、申込みの撤回又は解除ができるようにすること、②通信販売におけるファクシミリ広告にも、オプトイン規制を導入する、③次々と別の法人を別の地域で立ち上げて違反行為を行う悪質事業者への対処として、業務停止命令を受けた事業者の役員等が別法人で同種事業を行うことを禁止する業務禁止命令等です。消費者契約法の改正は、契約してしまった不当な契約の取消しと契約条項の無効化を目的として、①取消事由として過量な内容の契約の取消しを加え、不実告知による取消しの対象となる重要事項を拡大する、②消費者の利益を不当に害する条項を無効とする条項の事例として、例えば「いかなる場合でも解除できません」のような消費者の不作為をもって意思表示をしたものとみなす条項も消費者契約法第10条に例示として追加する等です。

 2016年4月には、弁護士会では、特定商取引法改正と消費者契約法改正に関するシンポジウムも開催され、例えば、入口部分の規制として特定商取引法に、「Do―Not―Call制度」(電話勧誘を受けたくないと登録した人に対する電話勧誘を法律的に禁止する)や「Do―Not―Knock制度」(お断りステッカーを貼付しているような訪問販売の事前拒否を認め、訪問販売を受けたくないと住所を登録した人への訪問販売を法律的に禁止する制度)を認めること、そして更なる消費者契約法の改正(消費者契約取消しや無効とする条項の拡大等)の必要性を指摘しています。

 また、消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律(消費者裁判手続法)は、本年10月1日より施行されます。今までのように消費者からの授権がなくとも、特定適格消費団体が原告として、消費者契約の相手方事業者を被告として、相当多数の消費者と事業者との間に存在する共通義務を審理の対象として確認する共通義務確認訴訟を提起することができるようになります。
 この「共通義務確認訴訟」とは、消費者契約に関して相当多数の消費者に生じた財産的被害について、事業者が、これらの消費者に対し、これらの消費者に共通する事実上及び法律上の原因に基づき、個々の消費者の事情によりその金銭の支払請求に理由がない場合を除いて、金銭を支払う義務を負うべきことの確認を求める訴えのことで(消費者裁判手続法第2条4号)、対象となる請求は消費者契約上の以下の請求で、金銭支払請求のみです。但し、①拡大損害、②逸失利益、③人身損害、④慰謝料は、対象外です(消費者裁判手続特例法第3条1項、2項)。
(対象となる請求)
①契約上の債務の履行請求
②不当利得に係る請求
③契約上の債務不履行による損害賠償請求
④瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求
⑤不法行為に基づく損害賠償請求(但し、民法の規定によるものに限る)
 但し、不法行為に基づく損害賠償請求で訴える場合には、消費者契約の相手方事業者だけでなく、履行する事業者(請負契約における下請事業者等)や勧誘する事業者(保険の代理店や不動産仲介業者等)、勧誘させる事業者(当該商法を実質的に統括している事業者)、勧誘を助長する事業者(例えば未公開株の販売事案で、客観的に財産的価値が乏しい自社株を不特定多数の消費者に高額で販売されることを知りながら販売業者に株式を譲渡した事業者)も被告となります。

 そして、第1段階目の共通義務確認訴訟の判決確定や和解、請求認諾から1ヶ月以内に、今度は、第2段階目として、特定適格消費者団体が対象消費者から授権を受けて、対象消費者の債権(誰にいくら支払うか)を個別に確定するという手続に入ります。簡易確定手続と異議後の訴訟からなる手続です。
 消費者庁のホームページに、消費者裁判手続特例法Q&Aが掲載されていますので、ご確認ください。不当表示のケースも、契約上の債務不履行又は不法行為に該当する可能性がありますから、消費者裁判手続法の適用の可能性があります。

 事業者側も、これらの法改正を十分に認識して、稼ぐ力を向上させることが必要だと思います。
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