東京21法律事務所所属

弁護士 広津 佳子  Lawyer Keiko Hirotsu Official Site

ブログ
2016/4/17
労働審判の運営
 2016年4月1日号「労働判例」に、東京地裁労働部と東京三弁護士会の協議会(第13回)の内容が掲載されておりました。
労働審判法は2006年(平成18年)4月1日に施行されましたが、東京の三弁護士会と東京地裁の三労働部は、労働審判の開始を控えた2006年3月に第1回目の協議会を開催し、以後は、当初は年2回、最近は年1回の割合で、労働審判制度や労働訴訟について協議をしてきました。従来の協議会の内容は、判例タイムズに掲載されております。

 議論は多岐にわたっておりましたが、印象深かった内容の1つとして、割増賃金請求事件における労働時間の立証は、①書証の情報の客観性、②その書証の作成目的、③書証が持っている情報内容と労働時間との結びつきを判断要素としているという裁判官の発言でした。
以上の①、②、③の3点が全て備わっている典型例は、タイムカード、タコグラフ、日報・週報であること、情報の客観性は高いものの必ずしも労働時間管理の目的で運用されているものではないもの、あるいは情報の内容と労働時間の結びつきが強いとは必ずしも言えないものとして、ログイン・ログアウト記録、電子メールの送受信記録などが挙げられていました。

 ログイン・ログアウト記録から労働時間の立証が主張されることは多いのですが、確かに、必ずしも労働時間管理と結びついていないケースは多いものです。
 例えば、電子カルテシステムに関しては、ある医師がID及びパスワードを入力して一旦ログインすれば、その医師によるログイン状態を利用して、他の医師が患者別のカルテⅡログインすることができるシステムの場合には、当該医師の労働時間を立証するものではありませんし、病院では、1つのパソコンを複数の医師が使用することもあります。あるいは、タイムカードで退勤処理をした後や、静脈未承認記載簿に退勤時間を記載した後の時間に当該労働者のID及びパスワードによるログイン、ログアウトがなされるといった事実が認められると、かえって、ログイン・ログアウトによる労働時間の認定に消極的になるような印象を持っています。

 パワーハラスメント事案に関しては、証拠として会話の録音やメールのやり取り、職場の協力者の陳述書などが提出されることがありますが、証拠の見方や評価によって違ってくるので、パワハラの決め手になるものではなく、上司が部下を指導する、あるいは仕事上のミスで叱責するなど適法な業務行為との区別が難しい点もあるので、相当詳細な審理が必要なケースも少なくありません。このため、申立人代理人も、労働審判ではなく、本訴を選択していることが多いという指摘もありました。

 但し、裁判官からは、パワハラの評価は人によって定まっていないということから、かえって、社会、職場の実情をふまえた感覚が反映できるので、労働審判の場において、解決の場としてどこまでできるのかという、労働審判に対する有益な問題提起ではないかと理解される発言もありました。

 労働審判も10年の施行を経て、労働審判が解決に有効であるケースについて、労働者及び使用者側の双方の代理人弁護士が、一定の知見、経験を持っている印象です。決定権を有する方が労働審判に同行していただくことにより、初回期日から調停が成立することもあります。
 私は、労働者にも使用者にも、早期の金銭解決が望まれるケースでは、労働審判による解決を勧めています。
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