東京21法律事務所所属

弁護士 広津 佳子  Lawyer Keiko Hirotsu Official Site

ブログ
2016/3/5
ファミリービジネスの課題
 先日、世界の富裕層を相手にするプライベートバンクのUBSのコンシュルジュが、世界の富裕層の悩みを語っているネット記事を拝見しました。
 アジアの超富裕層は急増していて、その預かり資産の36%が創業ビジネスによるものだそうですが、創業家の抱える悩みは、①当該国の税制の改正に伴う課税強化、②マクロ経済環境の打撃、③資産の承継に伴って起こる消失のリスクの大きく3つあり、特に3つ目のリスクは、世界で共通するとのことでした。具体的には、「ファミリービジネスでは家族が互いに助け合いながら成長しますが、1代目、2代目で築いた財産も3代目となると、一族の数が20人、30人と増えるため、ファミリービジネスの核となる価値観をすべてのメンバーで共有できなくなってきます。中には、”ブラックシープ(黒い羊=厄介者)”も出てくる。これは非常にデリケートな問題で、家族内に雑音や緊張感を生み、ビジネスだけでなく家族そのものの絆も弱めかねません。」とのことでした(「UBSの“コンシェルジュ”が語る、世界の『超富裕層』の知られざる悩み」より)。

 創業家が抱える悩み課税強化という点については、日本では、相続税が指摘されます。国税庁のホームページにも相続税の解説や論文の掲載がありますが、相続税は、明治37年2月に開戦した日露戦争の膨大な戦費調達のために、第二次非常特別税法として、明治38年(1905年)に創設されたものです。但し、第二次の増税時の他の戦時の臨時的な増税とは違い、相続税がヨーロッパの多くの国で恒久的な税制として採用されていることを知っていた当時の大蔵省主税局は、相続税は永久的な性質の財源として位置付け、平和回復後にも残すべく、相続税を非常特別税法の中で規定するのではなく、単行法として規定したようです。
 
 日本の創業家は、諸外国の富裕層とは違い、財産のかなりの割合を創業ビジネスの会社の株式で保有することが多く、昨今の非上場株式の相続税評価額も高いため、相続税対策を強いられている現状があるようです。日本には江戸時代から創業が続いている企業が多くありますが、”江戸時代には相続税の負担がなかったから家業を承継しやすかった”と言われるゆえんの1つでもあります。

 また、上記のコンシェルジュが指摘する資産の承継に伴う消失のリスクは、まさに相続によるものです。家督相続時代には、長子による単独相続でしたから、資産が分散することはありませんでしたが、昭和22年の憲法と民法の改正により家督相続が廃止され、配偶者は相続分を確保し、全ての子が均等に相続するようになったため、一族の数が20人、30人となる事態が発生するようになりました。4代目、5代目ともなると、資産の分割にしか興味がない場合も多く、上場していれば市場で株式を売却することができますので、創業家は放置すれば必ず分散していく運命にある資産(株式)をいかに維持していくか工夫が必要で、資産管理会社による運用や公益法人による株式保有等で工夫をしている創業家もおられます。

 そして、創業家が経営に携わるか否かも思案どころの1つと存じます。トヨタやスズキのように、創業家が保有する株式の割合が数%もないが社長は創業家から輩出しているケースもありますし、創業家も経営陣に加わり、さらに創業家が多くの株式を保有する企業もあります。

 上記のコンシェルジュが指摘する、「ファミリービジネスの核となる価値観をすべてのメンバーで共有」することは、持続的な成長を続ける上で、必要なことだと思います。まさに「企業理念」に当たるものです。ファミリービジネスの核となる価値観を、ステークホルダーといかに共有していくかがファミリービジネスの課題の1つで、その解決のヒントになるのが創業家との関係のような気がいたします。
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