東京21法律事務所所属

弁護士 広津 佳子  Lawyer Keiko Hirotsu Official Site

ブログ
2016/2/7
脳震盪の怖さ
 先日、「10代の脳」(フランシス・ジェンセン氏、文藝春秋社)を拝読しました。10代の脳は未完成で、10代を通じてIQが大幅に上がる子もいるなど、IQをも変化させる脳の成長期でありながら、快楽中枢が過敏で、脳が正しい判断ができないため、危険運転やドラッグ、アルコール、喫煙、男女交際、デジタル中毒などの衝動に負けてしまうこと等を、脳科学者が科学的研究の見地から述べている本です。20代の方でも脳は未完のようで、10代、20代の方には、怒るのではなく、根気強く説明する必要があることを理解しました。

 この本の中で、とりわけ印象に残ったのは、”脳震盪は侮れない”という事実です。脳は、頭蓋骨内の脳脊髄液という保護液の中に浮かぶ柔らかい器官で、脳脊髄液はクッションのような役割を果たし、脳を通常の衝突から守っていますが、脳震盪が起きるのは、鞭がしなうように頭部が前後に激しく揺れ、クッションがその衝撃を吸収しきれなかったときです。脳は、頭蓋骨の片側にぶつかって跳ね返り、反対側にも激しくぶつかり、ニューロンが傷つきます。衝撃の強さは、G値(物体や人間が衝撃を受けてから止まるまでの速度変化を重力加速度で割った値で、単位はg)で表されますが、くしゃみの衝撃値は3g未満で、大半は頭にかかるそうです。背中を平手打ちすると4g強、椅子にドスンと座ると10g、時速16キロで徐行するトレーラーが前の車に追突した場合は、10~20g。NFL(ナショナルフットボールリーグ)で選手が激しく衝突すると、30~60gになるそうです。アメフトの選手は日常的に100g超の力でぶつかりあっていて、90~100gは、時速32キロで頭を壁にぶつけるに等しく、たいていは脳震盪を起こすとありました。

 もっとも、脳震盪にならない程度の打撃でも脳を傷付けることがあります。脳が頭蓋骨内で激しく動いた後は、脳細胞を傷付けるだけで、すぐには症状が出ないことも多いようです。ただ、ニューロン細胞体のみならず、白質も衝撃で引き延ばされたりちぎれたりすることもあるとありました。
 脳震盪の後に出る症状としては、学習障害、めまい、頭痛、視界不良、光や音に対する過敏、平衡感覚の障害、倦怠感や無気力、睡眠パターンの変化(過剰な睡眠か不眠)、記憶喪失、思考の遅さ、集中力の欠如、新しい情報を覚えられない等が挙げられ、また、情緒の変化ももたらし、何週間、何ヶ月、何年にも長引くことがあるとの指摘もありました。
 そして、脳震盪は繰り返すことで、脳の損傷を修復しようとする神経化学物質が過剰に流れ、てんかんが起きる証拠もあるそうです。繰り返す脳震盪のために脳内出血等、死に至ることもあります。

 10代の脳は、おとなに比べ、回復までに時間がかかります。軽度外傷性脳損傷を受けた後の認知テストで基準値に戻る時間は、おとなは平均3~5日ですが、大学のスポーツ選手は5~7日、高校のスポース選手は10日~2週間にもなるという調査結果もあり、しかも、心理的な不安も伴います。症状がなくても競技をすぐに開始せず、十分に休養することが大切です。2011年にかつて学生スポーツ選手だった4人が、全米大学体育協会(NCAA)に 脳震盪後の適切な検査、プレー復帰のガイドライン、その他の安全対策を怠ったという理由で、集団訴訟を提訴し、出版時にも係属中であるという記述も拝見しました。

 10代のコンタクトスポーツには、十分な注意が必要ですが、くしゃみ1回で3g未満の衝撃がかかっていることを知り、アレルギーで、よくくしゃみをする私は、4回も立て続けにくしゃみをすると、時速16キロのトレーラーに衝突されているのと同じ衝撃値なのかと、結構な”衝撃”を受けました。これから花粉の季節です。気を付けます。
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