東京21法律事務所所属

弁護士 広津 佳子  Lawyer Keiko Hirotsu Official Site

ブログ
2015/11/28
犯罪歴のネット検索表示の削除命令
 本日、東京地裁の保全部が、米グーグルに対し、犯罪歴の検索表示の削除命令の仮処分決定を発令していたという報道を目にしました。
 申立をしていたのは、約10年前に振り込め詐欺事件で執行猶予付の懲役刑の言い渡しを受けた男性です。男性は、「犯罪歴の表示は更生を妨げ、人格権を侵害する」という主張をし、東京地裁はその主張を認めたことになりますが、グーグル側は、訴訟で争う姿勢を示しているようです。 
 
 昨年の5月に、EUの司法裁判所が、ネット上に残る個人に不都合な情報を検索結果から削除するようグーグルに命令したことで、「忘れられる権利」が注目を浴びました。本年3月には、ヤフーは、有識者会議がまとめた報告書を公表し、報告書で示された対応を本年3月31日から開始すると報道されたところです。

 本件の問題は表現の自由とプライバシーの保護が衝突した場合の調整の問題ですが、日本の最高裁判所は、事実を公表されない法的利益とこれを公表する理由に関する諸事情とを比較衡量するという判断基準を示しています。
報道によると、以下のヤフーの削除基準も、この最高裁判所の基準に従っているようです。
①まず情報を公表する理由と、情報が公表されない場合の被申告者の利益を比較する。
②比較の結果、権利侵害であると認められた場合、検索結果に表示されるタイトルや、Webページの説明に適した内容を一部切り出して表示する"スニペット"について、非表示の措置をとる
③非表示措置をとるのは全ての検索結果に関してではなく、被申告者に関連するキーワードなど、ある程度検索キーワードを限定して実施される。
④リンク情報の非表示措置に関しては、原則的にリンク元ページの管理者やプロバイダに対し、削除を命じる判決が出た場合にのみ実施するが、判決が出ない場合でも、「特定人の生命、身体に対する具体的・現実的危険を生じさせる情報が掲載されている場合」「第三者の前提としていない私的な性的動画が掲載されている場合」など、リンク先情報の権利侵害が明白であり、かつ緊急な措置が必要だとヤフー側が判断した場合は、例外的に非表示措置をとることもある。

 表示されている情報内容と、対象となった刑事罰の対象行為の態様や逮捕から経過している時間と、当該私人が受けている不利益等との比較衡量で判断するという、”比較衡量論”は、実は判断する裁判官によっても結論が異なる可能性のある手法であるため、予測可能性があるとは言えません。

もっとも、これまで削除命令の仮処分が発令されてきたケースとして、逮捕歯科医が5年以上前に資格のないものに診療行為をさせたとして逮捕されて罰金刑を言い渡されたケースや、男性が4年前に児童買春をしたとして逮捕されて罰金刑を言い渡されたケースがありますので、①逮捕時から4年以上を経過していること、②犯罪行為も罰金刑の言い渡しであったことは、プライバシー侵害を認める判断になりやすいと思われます。

しかしながら、グーグルの削除ポリシーには、上記のような判断基準の記載はなく、冒頭の約10年前の詐欺罪の前科の検索結果の削除についても訴訟で争う姿勢を示しているようです。グーグルは、何と言っても、ネット検索サービスの9割のシェアを握る支配的な地位にあります。かかるグーグルの検索結果に、いつまでも過去の犯罪歴が検索されることは、当該人物の仕事や日常生活にも支障が生じ、更生の妨げになるという要素があるのは否定できません。逮捕から数年を経過しても表示される過去の逮捕歴や犯罪歴の検索結果によって具体的に生じている不利益を真摯に主張する方からの訴えには、裁判手続によらずとも耳を傾けていただくことも必要な気がいたします。
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