東京21法律事務所所属

弁護士 広津 佳子  Lawyer Keiko Hirotsu Official Site

ブログ
2015/11/7
平成27年不正競争防止法の改正 営業秘密の保護強化
 営業秘密の保護を強化した改正不正競争防止法は、平成28年1月1日に施行予定です。昨今のニュースを見るだけでも、営業秘密の漏洩は問題になっています。
 例えば、2015年9月30日に、新日鐵住金は、韓国の鉄鋼メーカーのポスコとの間で、300億円の和解金の支払いを受け、3つの訴訟を取り下げたこと、但し、新日鐵住金の元従業員1名(漏洩者)に対する訴訟は遂行していくことをリリースしています。また、ベネッセの顧客情報の漏洩等に見られるとおりで、さらに不正アクセス行為も多く、企業の規模を問わず、営業秘密の漏洩の危険性が高まっています。

 改正の概要は、経済産業省のホームページに掲載されています。また、同ホームページには、平成27年改正を反映した不正競争防止法の概要について、分かりやすく説明をしていますので、ぜひご覧下さい。

 この改正にあたり、2014年9月に営業秘密の保護・活用に関する小委員会が設置され、委員の先生にお話を聞く機会がありました。経済産業省の問題意識は、特に中小企業では、物的人的資源も限られ、営業秘密として保護される要件の充足性に不安があるだけでなく、弁護士費用の負担が重く、民事訴訟を自ら提起して立証をすることが必ずしも容易ではない実情等から、刑事罰の罰則を強化し、併せて全国の警察組織における不正競争防止法違反事件の相談窓口や捜査態勢をさらに充実させて、捜査機関の力を利用して中小企業の営業秘密を保護したいという思いがあったようです。

 また、平成27年改正では、これまでの10年間の除斥期間が20年に延長され、この除斥期間の延長は、平成27年7月10日の改正法公布の時点で、不正使用の開始から10年を経過していない場合には、直ちに改正後の20年を適用するという、公布即施行となっています。そして、民事訴訟では損害賠償請求をする原告側が立証責任を負うことになっていますが、改正不正競争防止法第5条の2の推定規定により、原告側は、被告側の営業秘密(技術上の秘密が対象で、顧客名簿上の営業上の情報は除く)の違法な取得行為及び被告による当該技術と関連する事業を実施している事実を立証すればよく、逆に被告側が当該技術とは違う自社開発技術を使用しても同等の効果を達成できることを立証しなければならないとし、立証責任が転換されています。但し、この推定規定が働く被告側の違法な取得行為は悪意や重過失がある場合等に限定されていて、元社員が退職後転職先の指示もないのに自らが元勤務先の技術を不正使用するようなケースには適用がありません。 

 もう1つ注目するべき点は、不正アクセス行為が確認されると、営業秘密たる情報の持ち出しの事実を確認できなくとも、営業秘密侵害の未遂行為として、処罰の対象となりました(改正不正競争防止法21条4項)。

 企業の規模を問わず、営業秘密の保護は非常に重要です。経済産業省は、これまでの分厚い指針から、2015年1月に営業秘密指針を全面改定し、不正競争防止法による保護を受けられるために必要となる最低限の水準の対策を示しています。

営業秘密の保護についてご相談を受けることも多く、この機会に営業秘密の三要件(秘密管理性、有用性、非公知性)を充足しているかどうか、社内の管理体制について見直していだたくとよいと思います。
RSSアイコンRSSフィードを購読