東京21法律事務所所属

弁護士 広津 佳子  Lawyer Keiko Hirotsu Official Site

ブログ
2015/10/5
外国競争法コンプライアンス
 公正取引委員会は、平成27年3月に、「我が国企業における外国競争法コンプライアンスに関する取組状況について」の報告書をホームページにて発表しています。先日のセミナーで、この報告書について公正取引委員会事務総局経済取引局のお話をうかがいました。

 このセミナーの中で、この報告書に記載されているアンケート結果を見ると、アンケートに回答した海外展開企業の約50%は、中国、アメリカ、EUの競争法を意識しているが、韓国は18%にとどまるところ、韓国の競争法は日本の独禁法をベースにしながらEUの厳しい規制も取り入れて厳格なので、韓国の競争法は要注意との指摘がありました。

 また、アンケートに回答した企業が実施している興味深い事例も、上記の報告書に記載があるところ、例えば、以下の取り組みの指摘がありました。
①海外傘下のグループ会社に対し、日本の親会社の経営者がテレビ会議システムで日本語でメッセージを伝え、各国の言語の字幕が下に表示され、これを毎日のように行い、世界規模で周知している事例
②日本の親会社の法務部に競争法の専任者を置き、情報を集中させる体制を構築している事例
③営業品目がグローバル規模で数社で寡占された業界で、マーケットパワーを有するので、同業他社との接触は原則として禁止というグローバルルールを定めている事例
④現地の競争法の他、厳しい規制や個人の刑事罰を問われる欧米の競争法の運用、域外適用があり得ることを事例を交えて説明している事例
⑤海外の子会社の従業員が利用する全言語に24時間で対応可能なグループ共通の 内部通報窓口を専門業者や法律事務所に委託している事例
⑥制裁金の利率が決まっている日本と異なり、制裁金や罰則において裁量型を採用している外国の競争当局に対する協力度合いが制裁金等に影響するため、社内リニエンシー(外国競争法違反行為を自主申告すると、懲戒処分で配慮し、軽減する制度)を導入している事例
⑦従業員が証拠隠滅や虚偽報告を行った場合の重大な制裁の可能性を分かりやすい表現でマニュアルを作成し、事前に周知している事例
 
 もっとも、上記⑤の取組みの実情は、寄せられる情報の大半は、セクハラやパワハラだそうです。また、上記⑦の取組みにあるマニュアルにマンガを取り入れたら、アジアでは理解されたが、欧米のホワイトカラーには馬鹿にされたとのことでした。日本のアニメ、マンガ文化は、クールジャパンと言われつつもまだ世界規模で理解されているわけではないようで、誠に残念です(笑)。

また、世界の競争法はハーモナライゼーションの方向にあるとのことです。先日拝読した週刊誌の記事にも、ドイツ自動車大手のVWの排ガス規制逃れ事件につき、米国の司法副長官が9月に行ったある演説で、今後は企業に罰金を科すより、個人の刑事告訴と「民事告訴」を優先させると語ったそうで、告発された企業は、不正行為に関わった幹部や従業員の氏名を捜査当局に明らかにし、同人らに個人責任があることを示す証拠を提供する姿勢を見せないと、捜査に協力しても配慮してもらえないそうです。VW事件は、既に、韓国も調査すると発表しています。

 アメリカと韓国は、日本が犯罪人引き渡し条約を締約している国でもあります。日本の企業も、海外から個人責任を厳しく問われるリスクを十分に理解しなければならない状況にあることを改めて痛感しました。
   
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