東京21法律事務所所属

弁護士 広津 佳子  Lawyer Keiko Hirotsu Official Site

ブログ
2015/9/20
コンテンツの小分け傾向とコース料理への回帰、プリンス論
日経ビジネスオンラインは約200万人の会員を擁するまでに成長しています。その成功の要因として、先日拝読した月刊誌には、必ずしもITリテラシーが高い業界とは言えない出版界の中で、多くの専門誌を創刊してきた関係でIT専門記者を多くスタッフとして擁し、縮小する紙の雑誌市場からはじき出された著者の受け皿を用意することできたため、多様な記事の連載が可能となり、かつ多種多様な記事内容を盛り込んで編集するという雑誌で培われた手法をインターネットの場に持ち込んだことにあると指摘していました。
そして、日経ビジネスオンラインと日経ビジネス本誌との違いは、オンライン記事は、読者が全ての記事を万遍なく見ることはなく滞在時間はざっくり10分程度、読んでいる記事は2本程度で、ソーシャルメディアとスマホの普及もあり、どこでも記事を読むことができるようになったという、コンテンツの「小分け」傾向も指摘していました。

おもしろいのは、この小分け傾向は、文化の発達するプロセスでも見られるという指摘でした。文化の発達のプロセスでは、最初は教える人と教えられる人に分けられ、例えばフランス料理も、最初はみんながコース料理を食べて、フレンチは大体こういうものだと知って理解すると、今度は自分でてアラカルト料理を選ぶようになります。ただ、文化の発達はそこで終わりません。部分的に小分けされたものを選んでいる過程から、料理が分かってくると、もう1回コース料理のすごさが見直されるようになり、このシェフは違うと皆が知った時に、今度は客がコース料理を選ぶようになり、コース料理の客単価が高くなる、料理のすごさが分かればそれに対価を支払うようになるという指摘がありました。

似たような趣旨の記述は、先日発刊されたばかりの「プリンス論」(西寺郷太氏著、新潮新書、2015年9月20日発行)にもありました。あの天才音楽家のプリンスについて論じた書籍ですが、2015年2月のグラミー賞の最優秀アルバム賞のプレゼンターとして登壇した際、プリンスが、「アルバムって、覚えてる?」、そして言葉をゆっくり加え、「アルバムは、今も重要だ」、「本や黒人の命と同じように。アルバムは、今も重要だ。今夜も、これからも」と話をしました。その趣旨は、You Tube等のネットで流行の楽曲を曲単位で何気なく聴き、飽きると次の曲をクリックし、曲名もアーティストも忘れてしまうという、アルバム文化とは対極にある現状を踏まえ、ファンに対するだけでなく、アーティスト自身もリスナーを教育する責任を負うべきであるという意味も込めているのではないかというのが、この著者の意見でした。

 料理人も音楽家も専門家であり、職人です。現在の小分け傾向は避けられないとは思われるものの、同時に、職人側も、コース料理やアルバムのすばらしさを理解していただけるよう、サービスの提供方法の工夫等、努力をしなければなりません。
               
 本ブログのタイトルは、直近で拝読した記事内容や著者名を単に並べただけで、いわば小分けしたものかもしれません。私自身は、一弁護士として・一職人としてまだまだ勉強中の発展途上で、「教育」とはおこがましいのですが、少なくとも双方向性のコミュニケーションをとることできるようにしなければならないと、日々の努力の方向性について改めて考えさせられました。
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