東京21法律事務所所属

弁護士 広津 佳子  Lawyer Keiko Hirotsu Official Site

ブログ
2015/5/24
監査等委員会設置会社
 本年5月からの改正会社法施行を受けて、監査等委員会設置会社への移行を表明している会社は、移行済みの会社も含めて、知り得る限り160社以上あります。監査等委員会設置会社に関するセミナーが開催されることも多く、2、3年もすると上場会社の1000社くらいは移行しているのではないかと指摘をする弁護士もいる程、関心が高いようです。私も、セミナーに参加いたしました。

 監査等委員会設置会社は、業務執行者に対する監督を中心としたモニタリング・モデルの取締役会を指向することもできますし、監査役会設置会社型の業務執行機関としての取締役会として設計することもでき、設計の自由度が高いと言われています。また、監査等委員の任期は2年で、4年任期の監査役と比べ、任期途中の辞任する可能性が少なく、改選について柔軟に対応できますし、監査等委員3名(うち社外2名)と代表取締役の最低4名の取締役で設置することができます。社外取締役2名という要件も自ずと充足する点も魅力の1つとされています。柔軟で自由度が高いと言われている監査等委員会設置会社ですが、その分、移行する場合の制度設計の留意点として、私が参加したセミナーで指摘をされていたのは、①指名委員会等設置会社、監査役会設置会社と比べ、ガバナンスが脆弱になる懸念、②常勤の監査役がいなくなることによる、代表取締役に対する監督が弱体化する懸念、③社外監査役が横滑りで監査等委員になる場合の適任性の懸念等でした。

 監査等委員は、指名委員会等設置会社の指名委員会および報酬委員会と異なり、監査等委員でない取締役の人事について意見陳述権を有するにとどまり、決定権を持っていません。しかし、監査等委員は、任期が1年の監査等委員でない取締役の人事に関する意見を決定するには、現実には、毎年取締役の業績評価をせざるを得ず、監査等委員が、指名委員会と報酬委員会の仕事まで負担しなければならないおそれがあると言われています。こういう危惧があるためか、コーポレートガバナンス・コード補充原則4-10①は、監査等委員会設置会社で独立社外取締役が取締役会の過半数に達していない場合には、取締役会の下に独立社外取締役を主要な構成員とする任意の諮問委員会を設置するなどにより、独立社外取締役の適切な関与・助言を得るべきであるとしています。監査等委員が委託された業務を処理しきれないことがないよう、サポートする機関(任意の諮問委員会)の設置が必要となるわけです。

 また、監査等委員会について、内部統制システムを利用したモニタリング・モデルの取締役会を指向する場合には、監査等委員は、業務執行取締役の職務の効率性及び妥当性について監査するために、社内情報を的確に把握する必要があります。そのため、スタッフの増員が必要で、内部監査部門との情報共有、意見交換が必要です。この機会に、内部監査部門は、監査等委員会の下に位置付けるという内部統制もあり得ます。

 そして、会社法施行規則第121条10号イは、事業報告の内容として、監査等委員会につき、常勤の監査等委員の選定の有無及びその理由を記載するよう定めていますので、会社法は、監査等委員の常勤者の選定が望ましいと考えているものと言えます。

 業務執行決定に関する取締役会の権限の多くを取締役に委任することができる、モニタリング・モデルの監査等委員会設置会社は、終身雇用制と生え抜きから取締役を選任するという、日本企業の多くが採用してきた従来の体制から、昨今の投資家の望むROE向上に明るい経営者タイプの取締役選任を促し、社外取締役の複数化や多様化が必然的に起きてくる可能性、そして外部から経営のプロを連れてくるという体制に変化する可能性も秘めていると言われています。このままでいいと思ったら、このままではいられなくなる可能性もあるわけで(2015年4月18日ブログ「リスクは人を成長させる!」)、私も身の引き締まる思いです。
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