東京21法律事務所所属

弁護士 広津 佳子  Lawyer Keiko Hirotsu Official Site

ブログ
2018/11/18
AIに関する考察
 ちょうど1年前の2017年11月18日に、【カスタマー・ドリブン・マーケティングとAI】というブログを掲載しましたが、今年も、先日、AIに関するセミナーに参加し、たいへん興味深いお話をうかがいました。
 
 スピーカーのお1人は、脳科学者の中野信子先生で、先生方の対談の中で、以下のような指摘がありました。
① AIは、競争社会からの離脱。資本主義の先にあるものである。
② 過去を学習したAIは、差別も学習する。差別的な考え方に基づき選別をしてしまう。
③ 裁判官ではなく、AIが判決文を書けばよいというが、過去から学んでいるAIからは、アウトサイダーは、生まれない。
④ AIは、人間の視覚と聴覚の機能は持っているが、触覚の実現は難しい。毛穴の奥の立毛筋には可聴域の音を感じる働きがあり、人間の体毛が少なくなったのは、コミュニケーション能力を高めるためであると唱える学者もいる。You tubeを見て聞いただけでは分からない情報を、人は、直接会って、肌で感じている。
 
 アマゾンは、優秀な人材を、コンピューターを駆使して探し出す仕組みを構築するため、2014年から専任チームが履歴書を審査するプログラム開発に従事してきましたが、ソフトウェア開発などの技術関係の職種では、過去、ほとんどが男性からの応募であったため、システムは男性を採用するのが好ましいと認識し、逆に、履歴書に「女性」に関する単語の記載(例えば、女子大卒業や女性チェス部の部長といった単語の記載)があるだけで、評価が下がっていた事実に気づき、プログラムを修正したものの、別の差別をもたらす選別の仕組みが生まれていないという保証はないとし、2017年初めに、チームは解散という報道が、今年の10月になされたところです。チームを解散させたのは、アマゾンの良心だと言われています。

 また、報道によると、今年の10月には、英科学誌ネイチャーにて、自動運転車の倫理上の問題に関するアンケートの結果をまとめた研究論文を掲載されたようです。これは、2016年6月に、モラル・マシンと題したアンケート(10か国語対応)をインターネット上に公開し、公開から18か月間で集まった200万件以上のアンケート結果を分析したものだそうです。

 その分析結果ですが、西洋(北米や欧州など主にキリスト教諸国)は、子どもを救いたいという傾向が強く、他方、東洋(日本や中国など儒教の考えが浸透している極東の国々)は、上下関係を重んじる儒教の考えが浸透しているため、高齢者を救うとした人が多かったそうです。欧米では、損害賠償金額を考えれば、明らかに、子どもより高齢者のほうが少ないという観点から、躊躇なく、高齢者を選んでいるという話も聞きました。
 そして、報道によると、「より多くの人を救う」という点については、個人主義が発達した国でこの傾向が強く見られたとのことで、米国は14位。これに対して日本は117位、中国は113位で、さらに、東洋のほとんどの国は「歩行者を救う」と考える傾向にあり、日本は1位、そしてヨルダン、パレスチナ、イランと続いたとのことでしたが、東洋グループの中国は、「歩行者を救う」と考える順位は、116位だったそうです。人口の多さが影響しているのでしょうか。
 他方、法に則った人を救うという答えについて、日本(4位)や中国(9位)でしたが、同じ東洋グループのインドは、97位と大きく異なっていたそうです。

 論文では、誰を救うかのアルゴリズムには、個人主義か集団主義かが最も重要なポイントになると説明され、個人に重きを置く社会なのか、集団に重きを置く社会なのかの隔たりが、ユニバーサルな機械倫理を構築する上で大きな障害になる可能性があるとの指摘で、なるほどと思いました。
 
 現在、欧米を中心としてAIの開発が進んでいますから、どういうアルゴリズムが採用されるのか、関心があるとともに、中野先生がご指摘をされた、人間は、肌でも音を感じているという、まさに「肌感覚」は科学的に証明されているという点は、非常に感銘を覚えました。AIの持たない人間の五感である、触覚、嗅覚、味覚を意識した製品は、今後、期待できる分野かもしれません。

 以上の話を夫にしたところ、「自分は、コミュニケーション能力を発達させるために、頭髪が薄くなったのか」と、”好感度センター”を持っている自分を慰めておりました(笑)。
2018/9/30
「劣化するオッサンの処方箋」を拝読しました
「劣化するオッサンの処方箋」は、ビジネス書大賞2018年準大賞受賞作である「世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか」の著者である山口周氏の著作です。タイトルも記述内容も、刺激的ですが、興味深い指摘が多数ありました。

 印象に残ったのは、これからは、3ステージではなく、4ステージモデルで考える時代であるという点です。4ステージとは、0~25歳までの基礎学力をつけるファーストステージ、25~50歳までのいろんなことにトライをして経験を積み、自分の得意と不得意を理解するセカンドステージ、50歳~75歳までの世の中に実りを返していくサードステージ、75歳~100歳までの余生を過ごす時期に分けられ、人生のピークがかなり後半側にシフトするので、仕込みの時期が長くなることを意味します。実りのあるサードステージを過ごすためには、セカンドステージの過ごし方、特に学びの密度を上げることが重要だが、チャレンジの難しさは、チャレンジそれ自体より、何かを止めることにあるとありました。

 私は、40代後半で、そろそろセカンドステージを終えて、サードステージに入ります。自分のセカンドステージは、安定していたとはいい難いところ、不安定であったが故に、自分の強みと弱みを認識し、新たなチャレンジをせざるを得なかったことに、今は、たいへん感謝をしています。まだまだ、新たなチャレンジを続けたいと思います。

 ところで、数年前に、「妻がオッサンになりました」という著書が話題になったことがありますが、最近、立ち上がるときや座るときに「よいしょ」等と声を出すことの多い私は、夫から、「オッサン化した」と言われることもあり、これ以上、言動が“オッサン化”しないための努力も必要です(笑)。しかし、そういう夫も、私以上に、動作に声が伴うことが多い印象です。
2018/8/26
タイで発売されているプリッツ・スパイシーシュリンク味の感想
 事務所の弁護士から、夏季休暇中のタイに旅行のお土産に、タイで発売されているプリッツ・スパイシーシュリンク味をいただきました。

 日本で発売されているプリッツとは異なり、非常に細いもので、食べやすかったです。ネット情報では直径3mmだそうです。タイ語の表示内容は全く分かりませんが、おいしくいただきました。プリッツやポッキーが、海外(特にアジア)で売れているのも分かる気がいたしました。

 プリッツといえば、11月11日は、ポッキー&プリッツの日です。プリッツのほうがポッキーより3年も早く世に出ているのに、ポッキーのほうが売れているため、「同情するならプリッツを買ってくれ」というCMが流れていたことがありました。このCMのリリースまで、社内で随分もめたが、関係者がすんなり同意してしまうCMは、前例に従っているためなので、成功することは少なく、社内でもめるものほど、ヒットするという記事を読んだことがあります。なるほどと思いました。また、ポッキーの再人気は、江崎グリコ側から、こういう時に食してはどうだと提案し、タッチポイント(接点)を増やしたからのようで、マーケティングの重要性を認識しました。

 ポッキーやプリッツのような、海外にはない、日本の商品を海外に持ち込むことができれば強いわけです。しかも、江崎グリコは、マーケティングも強みですね。
 著名な日本の醤油メーカーも、世界100ヶ国以上で醤油を販売するに至り、日本の調味料を世界に広めました。海外展開にあたっては、食品はもちろん、産業製品やシステム等も、欧米の方式をまねるのではなく、日本式を世界に持ち込むという視点、そしてマーケティングがいかに効果的で重要であるかを改めて感じました。
2018/8/7
経済学からみる会社法
 1か月前になりますが、東京大学社会科学研究所田中亘教授による「経済学から見る会社法」のご講演を受講しました。田中先生は、法制審議会会社法部会の幹事のお1人でもありますが、法と経済学を研究する意味に関する先生のお話は、たいへん示唆に富むものでした。

 田中先生は、法と経済学を研究することの意味として、利益考量を精緻化、明確化する有用なツールであるとのご意見をお持ちでした。東大の星野先生がご指摘をされたように、「解釈の決め手になるのは、今日においてどのような価値をどのように実現し、どのような利益をどのように保護するべきかという判断」であって、市民は、最高裁判事や法律家の言うことが常に正しいとは思っておらず、「まず、常識で判断してみて、妥当と思われる解釈を導くような解釈を重視すべきであり」、「直感的公正観念ないし常識に基づくべき」という価値判断が妥当とのご意見でした。

 そして、興味深いのは、会社法の分野では、この「直感的公正観念に頼っても答えはでないことが多いのではないか」というご意見であったことです。

 田中先生が例として指摘をされたのは、敵対的買収に対して取締役会が防衛策を行使することがどこまで許容されるのかという点でした。確かに、田中先生が講演会の中で指摘をされておられましたが、買収防衛策には、現行の取締役の保身という効果があることは、否定はできません。スティールパートナーズとブルドックソース事件の平成19年8月7日付の最高裁決定も、新株予約権の無償割当について、会社の利益ひいては株主の共同の利益が害されることになるか否かについては、最終的には、株主自身により判断されるべきであると判断したのも理解ができるところです。

 また、会社法の改正とCGコードの導入等で、上場会社では、2名以上社外取締役の選任が普及しましたが、「社外取締役の導入によって、会社の業績はよくなる」という仮説を疑問の余地なく指示してよいかというと、少なくとも、二部上場の会社では、CGコード導入後に社外取締役を2人以上に増やした会社は、トービンのQで計測した株式市場の評価が低下しているという研究報告が存在するというご指摘は、興味深いものでした(平成29年9月6日の法制審議会会社法制部会第5回会議の資料23)。
 この研究報告をされた慶応大学の齋藤先生の解釈によると、時価総額が50億円程度が平均である二部上場会社では、社外取締役2名を選任する費用に見合うだけの企業価値の増加が見込めるかという点について、市場が懐疑的に反応しているのではないかというご説明でした。

 会社法は、特定の会社の中で、持株数の過半数を保有すれば、どんな方であれ、支配できるという世界です。会社法の分野では、仮説のいずれかが疑問の余地なく支持されるということはあまり多くなく、法律問題を一刀両断に解決しようとすれば危うさがあるということを改めて痛感した講演会でした。
2018/7/17
映画鑑賞
 ここ2ヶ月の間に、邦画を中心に数本の映画を鑑賞いたしました。
 邦画は、やはり、「家族」をテーマにすることが多く、先日のカンヌ国際映画祭でパルムドール賞を受賞した是枝裕和監督の「万引き家族」、山田洋次監督の「妻よ 薔薇のように 家族はつらいよⅢ」、内館牧子氏が原作の「終わった人」も、家族がテーマでした。

 どの作品も、重いテーマを扱っていますが(「万引き家族」は犯罪でしかつながりのない疑似家族、「家族はつらいよ」は夫婦間の信頼と甘え、「終わった人」は仕事以外の社会での役割を見いだせない辛さ)、いずれも登場するキャラクターが明るいのが救いだと思いました。

 また、池井戸潤氏が原作の「空飛ぶタイヤ」も、企業の不祥事対応のうえでは、参考になる場面もありました。
 長瀬氏やディーン・フジオカ氏、高橋一生氏らは、その抜群の感度の良さから、権限を有する者の判断に背いて不祥事を明らかにしようとしたわけですが、これまでは、周囲が彼らを理解することができない場合、ならず者、一匹狼、異端者等として、肩身の狭い思いをして、生きていかざるを得ないのが現状だったと思います。
 しかし、この映画の中では、組織の中の派閥争いとも重なって奇跡が起こり、見ている者は救われた思いがしました。最も印象的だったのは、主人公の長瀬智也氏が、「こんな状況の中で精一杯やった思いが誰かに届いて、奇跡が起きることを信じてるんだ」とつぶやいている場面でした。もみ消される可能性が高い、パージされるという暗い見通しの中でも自分を信じる自分を信じようとしている姿勢に心を打たれました。

 このブログの中でも、何回か触れていますが、今後のAI時代では、1つのシステムの中にきっちりはまってパフォーマンスを出すことが評価される時代は終わりつつあります。
 この映画のように、各自がどうやって自分のフレームを超えて、奇跡を起こしていくかは、自分がいる場所やその枠組みの中で懸命に努力しつつも、その場所や枠組み、組織に属さない別の視点を自分の中に持ち、その視点から考えることが、今後、益々大切になると思います。私も、自分を信じて努力を続けたいと思います。
RSSアイコンRSSフィードを購読